2023/03/23
遺骨の保管方法の基本|法令や日本の歴史と共に解説
遺骨はお墓に埋葬したり、納骨堂などに収蔵するのが一般的ですが、近年ではご遺骨を自宅で保管・供養する「手元供養」を選択する人が増えています。
手元供養はお墓を建てる費用を抑えることができ、しかも自宅で気軽に真心こめてご供養できることから人気を集めていますが、“気軽にご供養ができるようになる”というメリットがある一方で、“ご遺骨を自分で管理・保管する”という責任も伴います。
ここでは。自宅墓に関係する法令と歴史とともに、遺骨の保管方法の基本を解説します。
自宅で遺骨を保管するのは大丈夫?自宅墓に関係する法令とは
手元供養は遺骨を分骨し小さな骨壺などに入れて、自宅で管理・保管する供養方法です。
つまり、小量とはいえご遺骨を家に置いたままにすることになりますが、“自宅で保管することは法律違反ではないか?”と疑問を持つ方もいらっしゃいます。
さらに、「分骨すると成仏ができない」「罰当たり」など宗教的観点からも自宅で遺骨を保管することに抵抗や不安を抱くケースもあります。
自宅で遺骨を保管することは果たして問題があるのでしょうか。
法律面、宗教面両方から具体的に解説します。
■遺骨を埋葬せずに保管することは法律面からも問題ない
遺骨はお墓に埋葬することが義務付けられているように思われがちですが、実は遺骨を埋葬せずに個人で保管していても何ら問題はありません。
ただし、お墓や埋葬の法律として「墓地、埋葬などに関する法律(埋葬法)」が定められており、埋葬できる場所、すなわち遺骨を埋めることが可能な場所は定められています。
そのため自宅の庭や思い出の場所だからと言って遺骨を勝手に埋めることはできません。
第4条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない。
(墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号) |厚生労働省)
しかし埋葬「できる」場所は決まっていますが、遺骨をお墓に必ず納骨しなければならないという規定はありません。
ですから、遺骨を埋葬せずに自宅で保管し続けても問題は無いのです。
■宗教的にも問題無し。仏教の教えでも納骨しなければならない決まりはない。
日本人はお正月やお祝い事では神社にお参りする方が多いのですが、葬儀やお墓に関しては大半の方が仏教形式で行っています。
そのため、葬儀や供養に関するマナーや教え、儀式については仏教の決まりごとが気になるところですね。
しかし仏教の教義上においてもお墓に納骨をしなければならないという決まりはありません。
宗派によって異なりますが、故人の魂は四十九日で転生先が決まるため、お墓に納骨してもしなくても成仏すると言われています。
なお、浄土真宗では亡くなってすぐに故人の魂が極楽浄土に行くと考えられているので、“成仏しない”という考え方さえもありません。
確かに遺骨を自宅で保管しているという状況に、抵抗感を抱かれる方もいらっしゃいます。
しかし仏教の教えに反する行為ではないので、罰当たりになることも、故人が成仏できないということもありません。
お墓は目まぐるしく変化している!?意外と新しい自宅墓の歴史
手元供養の一つに家の中に置いてご供養するお墓「自宅墓」があります。
自宅墓は「核家族化で先祖代々のお墓の管理ができなくなった」「高齢化でお墓参りが負担になってきた」など、
現代の様々な課題を解決するために生まれた新しい供養方法です。
ではどのようにして自宅墓は登場したのか、お墓の歴史とともに解説します。
■江戸時代後期まで日本では庶民がお墓を持つことを禁じていた
現在、お墓を持つことは当たり前とされていますが、実は江戸時代後期まで庶民がお墓を持つことは法律によって禁止されていました。
中にはお墓を持っている庶民もいましたが、基本的には簡単な埋葬や火葬を行うのみで、ご遺体は山や川に捨てられることが多かったそうです。
しかし、1837年から「墓石制限令」によって埋葬や墓の形式に規則が作られました。
これによって庶民もお墓を建てる慣習が始まりましたが、墓石の形はまちまちであり、埋葬方法やお墓の建て方、ご供養の営み方に統一性はありませんでした。
現在の日本では「○○家代々の墓」のように、お墓は家単位で建立し、一つの納骨室に家族それぞれの骨壺を納めることが当たり前ですが、実はこうした先祖代々の墓が誕生したのは、伝染病拡大を防止するために火葬が推奨されるようになった1878年(明治11年)以降からでした。
■現在の一般墓の歴史は100年も経っていない
「お墓」というと古くから歴史があるようなイメージですが、
カロートと呼ばれる小さな納骨堂を設け、家族ごとに遺骨を納めていく現在のお墓の形になったのは大正時代からです。
きっかけは1923年(大正12年)に起きた関東大震災によって、多くの寺院墓地が壊滅状態となったことでした。
墓地を復興するために郊外に引っ越すか、墓地から納骨堂に転向するか、面積を従来の3分の1に縮小するかを選ばなければなりませんでした。
そこで面積の縮小を実現するために選ばれたのが、現在のカロート式のお墓のスタイルでした。
こうして、お墓は大正時代から現在の形に近付いていったのです。
■自宅墓はお墓が多様化する中で登場した新しい供養方法
江戸、明治、大正のそれぞれの時代で社会の変化に合わせて変わってきたお墓の形ですが、現在のように角ばった墓碑のスタイルが一般的になったのは戦後の高度経済成長期からのようです。
そう、意外に新しいのです。
高度経済成長期からバブル経済期まで、都市部へ移住する人が増えたことで、お墓の需要が高まり大規模な霊園が開発されるようになりました。
当時は大きな存在感のある墓碑を建立する人が多く、お墓はまさに“家族の象徴”“故人の生きた証”となっていきました。
しかし、バブル経済が崩壊し、その後社会情勢は目まぐるしく変わっていきます。
それとともに人々のライフスタイルや家族の在り方に対する考え方が多様化し。お墓や供養に対する価値観も変わりつつあります。
少子化に核家族化、供養の多様化…自宅墓はまさに、こうしたライフスタイルがめまぐるしく変化する中で登場した新しい供養方法で、今後さらに需要が高まっていくと考えられています。
遺骨の保管方法の基本・注意点
今後需要の高まりが考えられる自宅墓は、自宅に置いてご供養・管理をする手元供養の一種です。
小さな骨壺にご遺骨を安置し、自宅にいながらお墓参りをしたり故人に語り掛けたりすることが出来るとても真心こもった供養方法ですが、ご遺骨の管理には注意点もあります。
では、どのように遺骨を保管するのか、自宅で遺骨を保管する基本と注意点について解説します。
■遺骨の保管に適した骨壷・入れ物
自宅墓や手元供養でご遺骨の保管に使う骨壷や入れ物は、防湿性や密閉性の高いものが適しています。
ご遺骨の成分はほとんどがカルシウムで、カルシウムは湿気を吸収しやすい性質があります。
空気に触れることで空気中の水分を吸ってしまうことも…。
カビが生えると衛生的によくないうえに、ニオイの原因になります。
遺骨を保管する際はできるだけ外部から空気が入らない密閉性の高い入れ物か、しっかり防湿できる入れ物を用意しましょう。
難しい場合は乾燥剤を入れることができる入れ物を選ぶとよいでしょう。
■湿気の多い場所はNG!遺骨の保管に適した場所
とは言っても「自宅墓や手元供養って管理が大変なの?」と不安になることはありません。
ご遺骨は高温で焼かれるので、火葬直後はほぼ無菌状態になります。
お墓に収納している場合も、地上式の納骨室であればカビが生えることはほとんどありません。
きちんとした環境に保管していれば心配はないでしょう。
しかし念のために、遺骨を保管する場所は、以下の条件にきちんと当てはまる場所の中から選ぶと良いでしょう。
- 直射日光が当たらない涼しい場所
- 風通しがよく湿気が高くない場所
- 昼夜の気温差が少ない場所
■骨壷のメンテナンスは拭く程度で大丈夫。
寺院や霊園にお墓を建てる場合は、骨壷まで清掃する方はあまりいないでしょう。
しかし手元供養や自宅墓の場合は「家族が生活をする場」に安置することになりますので、管理者が定期的に骨壷を清掃しなければなりません。
と言っても、構える必要はありません。
手元供養の素材は汚れがつきにくいものが多いので、定期的にほこりを取ったり拭いたりする程度で大丈夫。
骨壷で安置する場合も、外を拭く程度で、中を開けて清掃する必要はありません。
乾燥剤を使用している場合は、定期的に新しいものに交換して、綺麗な状態を保つように心がけてください。
墓石の中に骨壺が収容されている自宅墓の場合は、墓石を軽く拭く程度でOKです。
なお、清掃はあくまで骨壺の周りだけにしましょう。
遺骨には発がん性物物質が含ままれているので、ご遺骨を出して洗浄するのはおすすめできません。
遺骨の保管方法の基本は湿気に注意すること
時代の変化とともに変わってきたお墓の形。
手元供養や自宅墓は多様化が求められる中で登場した、新しい供養方法であり、現代のニーズにマッチした方法だと言えるでしょう。
しかし、手元供養でご供養する場合は、遺骨は遺族自身が管理・メンテナンスを行わなければなりません。
遺骨の保管方法の基本は“湿気”に注意することです。湿気を吸収しないように、場所に注意して保管しましょう。
しかし日常生活の中では神経質になる必要はありません。
故人のご遺骨が入った手元供養品を“大切にする”気持ちがあれば大丈夫。
安心して手元供養をお楽しみください。