自然葬は今後広がっていくのか|需要の動きと関係する法令から解説
ご遺骨はお墓に納めることが当たり前とされてきましたが、近年、お墓を作らずに自宅に保管したり、散骨したりなど、第2第3の選択肢を選ぶケースが増えています。
中でも注目度が高まっているのが、ご遺骨を自然に還す「自然葬」です。
中でもその代表となるのが「散骨」でしょう。
自然葬が注目されている理由はいろいろありますが、「供養の価値観の変化」「家族の形態の変化」など社会情勢が大きく影響しているようです。
今後、自然葬は広がっていくのか、またどのようなカタチの自然葬が登場してくるのか、現時点での需要の動きと法令を解説します。
近年注目されている自然葬とはどんな埋葬方法か
近年注目度が高まっている自然葬には、さまざま埋葬方法があります。
そもそも自然葬とはどのような埋葬方法なのか、自然葬の種類とともに解説します。
■自然葬とは自然の中に散骨をすること
自然葬とは火葬後の遺骨を海や山などの自然に還す埋葬方法です。
お墓を用意する必要がないので、墓石や土地代、維持費などの費用がかからないうえに、お墓の管理や手入れが不要などのメリットがあります。
一方で、遺骨を自然に還してしまうので、手を合わせる場所が欲しい、故人の存在を近くで感じていたい遺族には向いていない埋葬方法だと言えるでしょう。
なお、海や山などで散骨する場合は、遺骨をパウダー化(粉骨)する必要があります。
粉骨しなければならない理由は、遺骨をそのまま撒いてしまうと自然に影響が出る可能性があること、
そして刑法190条の「死体損壊・遺棄罪」に接触する可能性があるからです。
(刑法190条 死体損壊・遺棄罪)
第190条死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。
ご両親が散骨を希望していたので散骨をしたら、ご親族に避難されたという話もよく聞きます。
また納得して散骨をしたものの、手を合わせる場所が無いことに寂しさを感じているというご家族もいます。
後悔しない選択をするために、事前に自然葬や粉骨に関してしっかりリサーチしながら心の整理を付けましょう。
海や山だけでなく宇宙にまで進出した自然葬の種類
自然葬で散骨する場所と言えば海や山が代表的ですが、自然葬にはほかにもさまざまな埋葬方法があります。
それぞれの自然葬の種類について解説します。
【海洋散骨】
海洋葬・海洋散骨は文字通り海に遺骨を散骨する埋葬方法で、散骨を選ぶ人の多くが海洋散骨をしています。
海は生命の源であることから、死後は大いなる母の元へ還るというイメージがあり、海洋散骨が選ぶ人も多いようです。
なお、海洋散骨は条例によってエリアが指定されている場合があるため、遺族側で勝手に行うのではなく、業者を利用することをおすすめします。
【樹木葬】
近年大変人気を集めている自然葬の代表的な埋葬方法が「樹木葬」です。
樹木葬は、お墓の代わりに樹木を墓標にする埋葬方法として誕生しましたが、近年ではそのスタイルは多様化しています。
現代の樹木葬のスタイルは大きく下記の3つに分けられます。
- ひとりひとり個別で遺骨ごとに植樹を行う「里山型樹木葬」
- シンボルツリーの周りに小さめの墓石を設置し、その下に遺骨を埋葬する「公園型樹木葬」
- 緑や花に彩られたガーデン風の墓所に墓石を設置して埋葬する「ガーデニング型樹木葬」
自然葬は遺骨を自然に還す埋葬方法ですが、現代の樹木葬の場合はカロート(お墓の地下部分にある納骨堂)に埋葬し、墓石を設置するケースが大半です。
カロートに埋葬する場合、遺骨が土に還るわけではないので、「イメージと違った…」など、相違が出てしまう可能性があります。
そうした場合「山に散骨する」という方法もありますが、山への散骨は海洋散骨よりも難しく、山の所有者を調べて許可を取る必要があります。
山の場合生態系に影響を与える場合もありますし、土地のイメージを悪くしてしまう恐れもありますのでトラブルの原因ともなります。
「この山に散骨したい」という強い希望が無い場合は、里山型の樹木葬を行っている業者を探す方が賢明でしょう。
【空中葬】
空中葬とは空で散骨する自然葬のことです。空中葬は主に2つの方法で行われます。
- ヘリコプターやセスナ機で海の上まで移動し、遺族が散骨する方法。
- 直径2メートルほどの大きな風船に位牌の一部を入れて空に飛ばす方法で、バルーン葬とも呼ばれる。上空に飛んだ風船は気圧によって破裂し、地上に散灰される。
上空から散骨する場合は問題ありませんが、バルーン葬の場合は全ての遺灰・遺骨を上空に飛ばすことはできないため、分骨する必要があります。
【宇宙葬】
宇宙葬は遺灰をカプセルに入れてロケットで打ち上げる自然葬です。
宇宙葬には半永久的に宇宙空間を漂うパターンと、地球に戻ってくるパターンがあります。
地球に戻ってくるパターンの場合、カプセルが周回軌道上に乗ったあと、時間経過で高度が下がり大気圏に突入時にカプセルとともに燃え尽きて、遺灰を自然に還すことができます。
ただし、必ずしもロケットの打ち上げに成功する保証がないうえに、打ち上げの機会も少ないのであまり現実的な方法ではありません。
自然葬が注目されている理由と需要の動きを解説
近年、寺院や霊園に墓石を建てる従来の一般墓を選ぶ人が減る一方で、自然葬を選択する人が増えています。
自然葬が注目されている理由と、需要の動きについて解説します。
■自然葬はさまざまな社会情勢が要因となって、今注目度が高まっている
少子化による高齢化社会の進行、経済状況の悪化など、現在の日本は非常に多くの社会問題を抱えています。
また核家族化が進み、従来の「家制度」は崩壊し、供養に対する考え方も変わってきています。
例えば、従来お墓を建てるためには、200~300万円前後の費用がかかってしまうことが当たり前でしたが、今はお墓にそうした高額の費用を費やす人が減少してきました。
また、高齢化社会によって地方に建てられたお墓を管理する後継者が不足し、ご先祖が眠る墓を守ることが難しくなってきました。
供養に対する価値観も変化し、「家のお墓を子孫が守る」という考え方自体が無くなってきました。
またお寺離れが進み、ライフスタイルが多様化するなかで、“自分が亡くなったあとの埋葬方法”も自分らしさを大切にしながら選べるようになりました。
このように環境が変化する中で、お墓を持たず自然回帰する自然葬は、現在のニーズにピッタリな埋葬方法として注目が集まるようになったのです。
■時代の流れとともに需要が拡大している
自然葬は時代の流れとともに需要が拡大し続けています。
2020年1月~12月にお墓探しの総合情報サイト「いいお墓」経由でお墓を購入された方を対象にしたインターネット調査によると、従来のお墓の形である「一般墓」を購入した割合は26.9%なのに対し、「樹木葬」は46.5%と半数近くを占めていました。
前年の調査では一般墓は27.4%、樹木葬は41.5%だったため、需要が急速に拡大していることがわかります。
自然葬の需要が急速に拡大した背景には、一部に新型コロナウイルスの感染拡大が影響している可能性も考えられます。
しかし時代とともに人々の価値観やライフスタイルが変化する中で、今後も樹木葬を含む自然葬の需要は増えていく可能性が高いでしょう。
お墓に埋葬しない自然葬は違法か、関連する法令を解説
自然葬は従来のようにお墓に埋葬するわけではありません。
海や山などに散骨する場合は、遺骨はそのまま自然に還すことになります。
そこで気になるのが、本当に遺骨はお墓に埋葬しなくてもいいのか、違法になってしまわないかです。
実は、お墓に埋葬しないこと自体は違法ではありませんが、場合によっては自然葬ができないケースがあります。
では本当に遺骨をお墓に埋葬しなくてもいいのか、自然葬に関連する法令について解説します。
法務省・厚生労働省の見解は「法律の対象外」
まず、遺骨の埋葬は定められた場所以外で行うことは「墓地、埋葬等に関する法律(埋葬法)」によって禁止されています。
第四条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない。
さらに、散骨は刑法190条に接触する可能性があると考える声もあります。
(墳墓発掘死体損壊等)
第191条 第189条の罪を犯して、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3か月以上5年以下の懲役に処する。
たしかに自然葬は自然に遺骨を還すために海や山などに散骨したり、樹木の下に埋葬したりするので、いくつかの法律に接触する可能性があると思われがちですが、実際のところ自然葬に関して規制する法律はありません。
まず、遺骨に関しては定められた場所以外に埋めることは禁止されていますが、お墓に埋葬しないという選択肢自体は禁止されていないので問題ありません。
そして、散骨に関する法務省および厚生労働省の見解は「法律の対象外」として、埋葬法で禁止する規定はないとしています。
海や山に焼骨(遺灰)を撒く、いわゆる「散骨」について、国は、「墓地、埋葬等に関する法律においてこれを禁止する規定はない。この問題については、国民の意識、宗教的感情の動向等を注意深く見守っていく必要がある。」との見解を示しています。
そのため、自然葬が法律に接触することはないので、罰則が下される心配はありません。
自治体によっては自然葬を禁止する条例を設けているケースがある
自然葬を規制する法律はないものの、自治体によっては自然葬での散骨を禁止する条例を設けているケースがあります。
地域によって多少内容が異なりますが、基本的には墓地以外、もしくは定められた場所以外での散骨は禁止となっているので、自らの判断のみで散骨を行わないように注意してください。
以下は、条例によって散骨を禁止している地域例です。
- 北海道長沼町
- 埼玉県秩父市
- 静岡県伊東市(陸地から6海里以内の海域での散骨を禁止)
なお、現時点で散骨に関する条例がない地域であっても今後条例ができる可能性があるので、自然葬での散骨を行う前に必ず問題がないか確認をしてください。
【まとめ】
法律に問題がない以上、自然葬は需要拡大する可能性が高い
自然葬は法律では全く問題のない埋葬方法です。
そして、現在抱えている日本の社会問題は、今後解決する可能性は考えにくいため、法律に問題がない以上は需要拡大が続く可能性が高いです。
ただし、現在の社会のニーズに合った埋葬方法や供養は、自然葬以外にも納骨堂や自宅墓などがあり、需要が分散する可能性も考えられます。
いずれにしても、一般墓の需要は縮小傾向であり、社会問題が解決しない限りは自然葬のようなニーズに合った埋葬方法が選ばれるようになるでしょう。